なまこ壁

全国でも希少となったなまこ壁の建造物。
伝承される漆喰の技、そして町民の想い。
この町では、失われつつある「日本の原風景」に触れることができます。

伝承される漆喰の技

「なまこ壁」は、平瓦を壁に貼り付け、目地を漆喰で海の生き物「なまこ」のように盛り上げるスタイルからその名称がつきました。防火性、保温性、保湿性に優れ、明治時代から昭和初期まで各地で見られた外壁の工法ですが、老朽化や建て替えなどで年々減少。現在、伊豆では松崎町と下田市、全国的には岡山県倉敷市や広島県東広島市などに見られます。松崎町には今も190棟余り残っており、昔ながらの趣を留めています。

全国でも希少となったなまこ壁。町では重要資源と位置づけ、保存活動が活発です。今でもなまこ壁を作れる左官職人がいて、修復を行うことで技術伝承や街並みの整備を行うとともに、地元有志による「松崎蔵つくり隊」が保全・啓発運動を進めています。当たり前のように存在するなまこ壁ですが、こうした職人と町民の「地域資源を未来に残したい」という想いと努力があるからこそ、残していけるものなのです。

漆喰鏝絵の名工・入江長八

通称「伊豆の長八」と呼ばれる漆喰芸術鏝絵の名工・入江長八。文化12年(1815年)、当時の伊豆国松崎村明地(松崎町)に貧農の家の長男として生まれました。幼い頃から器用で、漆喰細工に絵の技法を取り入れてみたいと念願していた長八は、19歳で江戸へ出ると川越在住の狩野派の絵師・喜多武清の弟子となり、3年間修行しました。漆喰に漆を混ぜると思い通りの鮮やかな色が出せることや、鏝絵という新分野の技法を工夫した結果、長八独特の芸術的ジャンルを確立。数多くの名作を生み出しました。

江戸で名工とうたわれるようになったのは26歳の頃。明治22年(1889年)、享年75歳でこの世を去るまでに多くの作品を残しましたが、江戸で作られた作品は関東大震災によって大半が消失してしまいました。現在「伊豆の長八美術館」では約45点の作品が見られるほか、浄感寺内の「長八記念館」、「国指定重要文化財 岩科学校」にも展示されています。

左官職人の手仕事を鑑賞

明治13年に建てられた「国指定重要文化財 岩科学校」は社寺風の趣を取り入れた和洋折衷の学校建築です。外装の白壁にはなまこ壁を配し、2階日本間の欄間には入江長八によってほどこされた千羽鶴が、一羽一羽形を変えて描かれており、まるで壁面より抜け出てくるかのように日の出を目指して飛翔する姿が見られます。現在は松崎町が管理しており、館内を見学することができます。

保存されるなまこ壁の建築物

江戸時代中期元禄期に建てられ、静岡県の指定有形文化財である「旧依田邸」。民家では伊豆地域で2番目に古い建物です。松崎を含む西伊豆一帯は冬に強い西風が吹きます。当地特有の建築様式であるなまこ壁は、火災になった場合には西風による延焼を防いでくれます。

また、なまこ壁の建物が石畳の小径沿いに立ち並ぶ「なまこ壁通り」は松崎の風情を代表する通りです。車を降り、是非ごゆっくりと情緒あるまちなか散策をお楽しみください。

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